大阪地方裁判所 平成10年(ワ)4313号 判決 1998年6月16日
反訴原告
山口実
反訴被告
廣瀬和美
ほか一名
主文
一 反訴原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金五三万五五一〇円及びこれに対する平成一〇年五月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告廣瀬和美は、反訴原告に対し、金二五万円及びこれに対する平成一〇年五月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、反訴被告海老江俊二(以下、単に「被告海老江」という。)が所有し、反訴被告廣瀬和美(以下、単に「被告広瀬」という。)が運転する普通乗用自動車と反訴原告(以下、単に「原告」という。)が運転する普通乗用自動車とが衝突した事故につき、原告が、被告海老江に対しては、自賠法三条に基づき、人損の賠償を請求し、被告広瀬に対しては、民法七〇九条に基づき、人損及び物損の賠償を請求した事案である(なお、本件は、取り下げによって終了した平成九年(ワ)四二二九号債務不存在確認請求事件の反訴である。)。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
1 事故の発生
左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成九年四月一三日午後八時四五分頃
場所 名神豊中南インターチェンジ料金所付近(以下「本件事故現場」という。)
事故車両一 普通乗用自動車(大阪七一ね二一三〇)(以下「被告車両」という。)
右運転者 被告広瀬
右所有者 被告海老江
事故車両二 普通乗用自動車(京都三五て八七九)(以下「原告車両」という。)
右運転者 原告
態様 被告車両と原告車両とが衝突した。
2 責任原因
(一) 被告広瀬
被告広瀬には、右方を注視して進行すべき義務等に違反した過失がある。
(二) 被告海老江
被告海老江は、被告車両の保有者であり、自己のために同車両を運行の用に供していた者である。
二 争点
本件の争点は、原告に生じた損害の有無及び額である。
(原告の主張)
(一) 治療費(文書費含む) 三万二五一〇円
(二) 休業損害 二五万三〇〇〇円
原告は、本件事故当時、有限会社フジサワ工務店の解体作業に、日給二万三〇〇〇円の約束で働いていたが、通院(一一日)を余儀なくされた結果、通院当日は仕事を休まざるを得なかった。
よって、右日給の一一日分に相当する二五万三〇〇〇円が休業損害である。
(三) 入通院慰藉料 二五万円
(四) 原告車両損 二五万円
原告車両については、本件事故当時、売却の予定であったところ、本件事故によって損傷したため、補修の上売却したが、価格は六五万円であった。しかし、原告車両については、原告が刑事事件による服役が迫っていたことから、売却のために本件事故の約二か月前である平成九年二月中旬に査定してもらったところ、九〇万円であった。
したがって、原告は、九〇万円と六五万円との差額である二五万円相当の損害を被った。
(被告らの主張)
治療費(文書費含む)は不知、その余の損害は否認する。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 前提事実について(事故態様等)
前記争いのない事実、証拠(甲一、二、四、検甲一1ないし5、被告広瀬本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、大阪府豊中市名神口二丁目大阪府道高速大阪池田線池上豊中南インターチェンジ先路上であり、その概況は別紙図面記載のとおりである。
本件事故現場は、名神高速から一般道への出口料金所付近であり、約三・五メートル幅の料金所への進入路が四本走っている。
被告広瀬は、平成九年四月一三日午後八時四五分頃、被告車両に乗って、料金所から出るため、時速一〇キロメートル未満程度の速度で進行していたが、多数の車両が料金支払のために停滞していたものの、右車線が空いていたので、別紙図面<1>地点で右に進路を変更したところ、同図面<2>地点で、右方を進行していた原告車両(同図面<ア>地点)の左フロント部に衝突し、そのまま両車両は、原告車両の左側をリアバンパーに至るまで擦るような形で進行し、停止した。被告車両の停止位置は、同図面<3>であり、原告車両の停止位置は、同図面<イ>地点である。被告広瀬は、衝突するまで原告車両に気づいていなかった。右衝突により、原告車両は、フロントバンパー、左フロントドア、左リアドア等が損傷し、リアバンパー等が損傷した。
以上のとおり認められる。この点、原告は、原告車両が停止していたところ、被告車両が左後方から原告車両の左側に接触してきたものであると主張し、乙第八号証(診療録)における事故状況の説明欄にも右主張に沿う部分があるが、原告車両の損傷状況等に照らし、これを信用することはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 争点について(損害額)
1 証拠(乙一、八、九2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告(昭和三六年一〇月九日生)は、本件事故の翌日である平成九年四月一四日、吉栖外科整形外科にて受診し、事故の状況につき、停車中の原告車両に横(左後)から被告車両がぶつかってきたと説明し、頸部捻挫、腰部・右足関節挫傷の傷病名で、同年五月二八日まで通院治療を受けた(実通院日数一一日)。初診時、頸椎の前方後方運動は疼痛により制限され、ジャクソンテスト、スパーリングテストはいずれも陽性であり、腰部の筋緊張は著明であり、ラセグ徴候等は陽性であり、その後も、腰痛を持続して訴えた。同整形外科では、低周波、湿布を中心とする治療が行われた。
平成九年七月二五日の京都刑務所の入所時健康診断においても、本件交通事故に起因する腰椎症等があると訴え、安坐許可を得たが、同年八月一二日、正坐できると申告し、安坐許可を返納した。
原告は、腰痛の原因につき、本件事故の際、瞬時に驚いて左後方を振り返った時に腰をきつくひねったためであり、腰の骨が飛び出して少し変形していると説明している。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右のとおり、原告は、腰痛の原因につき、停車中の原告車両に横(左後)から被告車両がぶつかってきたので、瞬時に驚いて左後方を振り返った時に腰をきつくひねったためであると説明している。しかしながら、本件事故は、被告車両が走行中の原告車両の左フロント部に衝突し、そのまま原告車両の左側をリアバンパーに至るまで擦るような形で両車両が進んでから停止したというものであるから(前認定事実)、原告は実際とは異なる事故状況を医師に説明したものと認められる。原告がこのような説明をした理由を考察するに、原告が本件事故の状況を勘違いしたとは考えがたい以上、原告は意識的に実際とは異なる説明をしたことになる。右説明が医師に対し、症状を訴える前提として行われたものであることにかんがみると、原告がこのような説明をした理由は、被告車両が原告車両の左前方に衝突したと説明するよりも左後方に衝突したと説明する方が、腰を強くひねったという説明と整合性が取りやすいと考えたためであると推認される。また、原告は、本件事故により、腰の骨が飛び出して少し変形していると説明しているが、これを裏づける証拠はない。
以上の事情に照らすと、仮に原告に腰痛等の症状があるとしても、これと本件事故との間に相当因果関係があると認めるについては、合理的な疑いを差し挟まざるを得ない。
3 損害額
(一) 治療費(文書費含む) 認められない。
前記のとおり、仮に原告に腰痛等の症状があるとしても、これと本件事故との間に相当因果関係があると認めるには足りないから、治療費(文書費含む)は認められない。
(二) 休業損害 認められない。
右と同様の次第で、休業損害も認められない。
(三) 入通院慰藉料 認められない。
右と同様の次第で、入通院慰藉料も認められない。
(四) 原告車両損 認められない。
原告は、評価損的な損害として二五万円を主張する。しかし、原告車両につき、修理後にも残存する客観的な価値の下落を認めるに足りる証拠はない上、本件事故の約二か月前である平成九年二月中頃に株式会社ヒライオートサービス(以下「ヒライオート」という。)が原告車両を九〇万円と査定した事実は認められるものの(乙四、もつとも査定書等の類はない。)、原告が、平成九年二月一九日、株式会社フジキから金銭を借用し、原告車両を担保に供したこと(甲三、弁論の全趣旨)にかんがみると、右査定は右金銭消費貸借の際の参考資料を得る趣旨で行われたものとみる余地等が残り、右査定の事実から、原告が本件事故当時、原告車両を売却する予定であったとか、実際にヒライオートが九〇万円で買い取ることをおおむね保証していたとか等の事実を認めることはできず、他に原告主張の右損害を認めるに足りる証拠はない。
三 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面 交通事故現場見取図